『小説の終焉』
センセーショナルなタイトルだが、挑発した内容ではなく日本の小説を真摯に正確に捕らえています。「十七年かけて小説を読み直した」うえで到達した結論には驚かされました。小説の歴史は二葉亭四迷の『浮雲』から約120年、敗戦の前後60年ずつで前期と後期に区分されるそうで、近代小説のテーマとしてきた「私」「家」「性」「神」などの問題はほとんど書き尽くされたため終焉を迎えようとしていると分析しています。著者の主張から少し離れますが、小説が持つ社会に対する影響力が弱くなったことは1980年代頃から指摘されていました。複雑に深化する現代において真理を追究する手段として小説は既に役割を終えていました。社会的な要請が無くなって、自ら書くテーマを失ってしまった小説はどこを目指すのでしょうか。著者は「おわりに」で次のように述べています。
「しかしそれには最低条件がある。小説が存続するには、この次の百年にこれまでの百二十年の小説の歴史を大きく凌駕する豊穣な世界が創作されなければならない。」
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