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2005.04.13

『ロスト・メモリーズ』

監督・脚本、イ=シミョン。2002年韓国。サスペンス・アクション映画。英題『2009 Lost Memories』。出演、チャン=ドンゴン、仲村トオル、ソ=ジノ。

何たることでしょうか!!この映画を観るまで初代総理大臣「伊藤博文」が暗殺されていたこと、しかも韓国人だったことを知りませんでした。韓流ブームに乗っていながら、こんなにも歴史認識が薄っぺらいとは情けない。勉強不足を大いに反省しなければなりません。明治以降については小説『坂の上の雲』の感想を書いた通り、甘い歴史教育の被害者でもありました。
伊藤博文については「京都大学附属図書館 維新資料画像データベース」から一部引用します。

 日露戦争後大使として韓国に赴き、同38年第2次日韓協約を結び、韓国統監府を設置、初代韓国統監となって、韓国の国内改革と保護国化を推進し、ハーグ密使事件(1907)を利用して韓国皇帝を譲位させ、第3次日韓協約を結んで内政を掌握した。

 明治42(1909)年6月統監を辞し、四度枢密院議長となった。

 日本政府のなかでは対韓慎重派であったが、韓国民族運動の矢面に立たされ同年10月満州視察と日露関係調整のため渡満した折、ハルピン駅頭で韓国の民族運動家安重根(あんじゅんくん)に射殺された。年69。

この作品は伊藤博文が暗殺されず第二次世界大戦で日本が負けなかったらという近未来の時代設定をしています。舞台となる2009年の韓国は日本に支配されて、日本の文化の中で生きていかなければならない状況にあります。言語はすべて日本語で冒頭からたどたどしい発音の日本語が流れます。それはもう痛々しいくらい日本語での日常会話です。準主役の仲村トオルが演じる家庭での家族の姿は日本が戦争に勝っていたとしたら日本人から観ても"ありうる"と納得させる情景で、監督の想像力は素晴らしいものがあります。登場する自動車も左車線走行の右ハンドルで本当は日本映画ではないかと半信半疑で観続けました。この歴史的視点によるダイナミックなアイデアは素晴らしくSF映画としては格調高いものとなっています。最近も「竹島(独島の日本名称)問題」で揺れ動く両国ですが、韓国人から見た日本人像と日本人から見た韓国人像には根深い乖離を感じさせられました。真の友情でさえも歴史という大儀に巻き込まれてしまう宿命は残酷さと無念さ以外の何ものでもありません。さて、作品としての評価は、残念ながら中盤以降は冗長的で間延びする場面が多く、時として話を端折って場面が展開する傾向があります。戦闘シーンが少々軽く薄っぺらく感じられました。しかしながら、チャン=ドンゴンと仲村トオルの熱演は心を揺さぶられますし、語られるテーマは必見です。特にナショナリズムを考えるうえで参考になる作品です。(お薦め度★★★)

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