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2006.01.08

新書『巨大地震』

監修、坂篤郎(さか=あつお)・前内閣府審議官、地震減災プロジェクトチーム。角川書店。
昨年中に読み終わっていましたが、姉歯秀次元一級建築士による構造計算書の偽造(姉歯事件)が大きなニュースとなっていたので書評を延ばしてきました。

この本では巨大地震が発生するメカニズムから被害状況の想定、企業としての対応、国と自治体の備え、防災力としてのボランティア活動まで、実際の対応マニュアルとして役立つ構成になっています。被害状況の想定は「首都直下地震」を例にしています。東京に巨大地震が発生した場合にどうなるのかを阪神・淡路大震災のデータを基に発生時間や季節の4つのケースで風速を組み合わせて分析しています。これによると国や地方自治体は相当の準備をしていることがわかりました。

家庭で起こる災害として震度と住宅の関係で震度6強で全壊率が大きく上昇するという被害データがあり、地震に強いかどうかの判定は1981年以前に建てられたかどうかに集約されるとありました。この年に「新耐震設計基準」に改正されたことによって、これ以降の建物は被害を受けにくくなっているとのことです。すなわち1981年以降に建てられたものが全壊率が少ないという前提でシミュレーションされているでした。まさに「姉歯事件」はこの前提を揺らぐものにしたのです。年末の報道番組で工学院大学の研究室が姉歯の設計による模型と正しい設計による模型で地震がどう影響するかの実験をしていました。当然ながら姉歯の設計による模型は倒壊してしまいます。ただし、正しい設計による模型もひびが入ってしまいました。

これは何を意味するのでしょうか。

週刊金曜日2005/12/9(585号)のインタビュー記事「「姉歯事件」の深い闇を斬る 免震の提唱者 多田英之氏に聞く」から一部引用します。

そもそも、地震に耐えられる絶対的な数字とうものはいまだに存在しない。 同じような建物でも地震が来て、潰れるものと残るものが出てくる。地震が来るまで耐震の性能はわからないのが実態だ。だから、大きな地震が来るたびに建築基準法が改正されて補強されてきた。それも、まずくなった部分だけ補強するわけだ。
法で建築を規制している国があるかどうか、昭和30年代に徹底的に私は調べた。その結果、日本の建築基準法は、先進国では科学技術を規制する唯一の法律であることがわかった。
ある時期までは建物はどっしり頑丈に建てればよいと私も信じていた。だが私は耐震設計を30年間研究して、「耐震」では地震に対抗しえないことがはっきりわかった。だから、実物大の実験をし、データもある「4秒免震」を提案している。
地震に対する恐怖を行政は煽る。それで行政の権限を強くしようとしている。今の国土交通省レベルでは耐震についてなにもわからない。耐震レベルなどを証明できるのは日本建築学界だけだ。

「姉歯事件」は「耐震」というルールにおいて、建設官僚と申請者である姉歯元建築士とのトラブルと言えます。この事件は現状の建築界の問題としてきっちりと解明すべきです。しかし、本来の巨大地震に対してはどうでしょうか。一級建築士に構造計算書を正しく申請させれば解決するわけではないのです。建物の倒壊を減らすだろう「耐震」よりも、建物の倒壊も防ぎ、さらに建物の中にいる人間の安全性や不動産という財産を守る「免震」という方法について議論を尽くすべきなのです。何よりも首相官邸は免震構造を採用していますし、先に紹介した報道番組による正しい耐震設計の模型も実験によって建物としての価値を無くしてしまうことが証明されているのですから。

本書と「姉歯事件」、"多田英之氏のインタビュー"から建築界の問題について多くのことを考えさせられました。

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